信州名物として注目され、今や定着しつつあるおやき・焼き餅は、ほぼ全県的にあります。
そして特に、北信州(北信地方)においては大変に馴染みの深い食品の一つになっています。
おやきとは、小麦粉であん(餡子は勿論餡以外の具材もあんと呼びます)を包んだもので、代表的なものでは「ナスあん」などといって、信州特産の固い丸ナスを切って使い、ナスと共に油、みそ、小麦粉を賞味する特徴のある食べ物です。
各家ごとに味も違い、親から嫁や娘へ母子代々相伝の技法により作り方が異なるという特徴があります。俗にナスあんは手前味噌のの味がすると言われます。
蒸し饅頭のように「蒸したのも」や「表面を焼いてから蒸したもの」、「囲炉裏で焼いたもの」や、「灰の中に直接入れて焼いたもの」(今では殆どありません)など地方によってその製法は異なります。
■餡の種類
いわゆる餡子と呼ばれる甘い餡では、小豆あん(こし餡、粒餡)、そら豆餡、うぐいす餡、等々。
「野菜餡」と呼ばれているものには、季節の野菜などを豊富に使い、丸ナス、切り干し大根、ニラ、カブ、かぼちゃ、キャベツ、人参、野沢菜、等の単品やミックスしたものなどがあります。
野菜の他には、おから、ヒジキ、サンマ等色々存在します。
特に北信州(北信地方)では油、みそ、などをはさみ込んだ丸ナス(輪切り)の「なすあん」が一番人気です。
■お盆と強い結びつき
おやきは特にお盆には欠かせないものとして、今でも作る家庭があります。
《八月一日》
「ご先祖様があの世を出発する日(地獄の口開け、地獄の戸が開く日、地獄の戸石の戸と呼ばれる)」とされた八月一日。あの世とこの世の境界の頑丈な石の戸を破るために、特別に硬い焼き餅を作って供える。この世へ戻る道中の食べ物、携帯食として供えるところもある。かつて家々では早起きしておやきを作り仏壇に供えた。
《八月七日・十三日・十四日・十六日》
さらに七日(七夕)と十三日ないし十四日(お盆の始まり)朝もおやきを仏壇に供え、十六日夜は「帰りおやき」といって長い道を持参してもらうため同様に仏壇に供える。
■各地の特色豊か
《長野市を中心とした善光寺平》
日常的におやきを食べているほど盛ん。家庭でも作るが、専門店があちこちにあり。ふかしまんじゅう的なおやきが中心。油を使って表面を焼いてから蒸すところもある。なすあんおやきといって、丸ナスを輪切りにして餡にするのは一つの特徴。
《長野の善光寺》
七月三十一日の晩に本堂で夜明かしをする「おこもり」の習俗が明治時代まで存在。明けた八月一日に持ち寄ったおやきを参詣人にふるまう、という習慣があった。
《南佐久》
ハリコシなどと呼ぶ焼き餅(まんじゅう)は、小麦粉(そば粉)に味噌やネギを混ぜて焼く。粉に初めから調味料を混ぜるのが特徴。
《佐久から上田方面》
「ふかしまんじゅう」の作り方が多い。餡には野菜や小豆を用いる。また、粉に重曹(ふくらし粉)を入れることもあり。
《上伊那》
おやきといえば小豆餡入りのものをさすことが多い。恵比寿講の時食べるお菓子として各地でみられる。
《下伊那》
あまりおやきとはいわない。お盆にもまんじゅうが作られるくらい。野菜餡入りまんじゅうは市販も。
ちょっと変わった焼き餅の伝統あり。「そば焼き餅」で、そば粉を用い、餡には塩サンマを入れる。囲炉裏、フライパンで焼くと、サンマも蒸し焼きになり、独特の味わいに。
《木曽》
以前はそば粉の焼き餅が各地にあり。
今も御嶽山麓はそばどころとして知られるが、焼き餅はほとんどみられない。
《南北安曇および東筑摩》
特に山村で灰焼きの焼き餅が今でも作られる。小麦粉が中心、一部に未熟米(シイナ)やそば粉を使用。特に小谷村・白馬村方面では雪が多いため麦作が適さず、そば粉が多く使われる。小谷では日本海に近いことから、餡にイワシを使う例もあり。
《安曇野》
ふかしまんじゅうのものが主流。
《上水内群西部の山村は西山地方》
「西山のおやき」として定着。灰焼きは少なくなったが、囲炉裏をで焼いて楽しんでいる家もあり。 |